子どもと教育の、今とこれから

学級づくりの現場は、
教室の先へ続いている。

松久 眞実 教授

学級を経営するということ

子どもが在籍する学級を、目的に即して教育活動を充実させていく教師の仕事を、「学級経営」と言います。学級に集まるのは、さまざまな個性を持った子どもたち。元気な子、大人しい子。中には周りと少し様子が違う子も。みんなが座って授業を聞いている中で、突然教室を出ていってしまう子。落ち着いて人の話が聞けない子。いろいろな子どもがいる学級の経営に、どう向き合えばよいのでしょうか。国語や算数など教科の指導法を学ぶ科目、子どもの心理や発達を学ぶ科目はありますが、「学級経営」という科目はありません。それでも、教員採用試験に受かったら、1年目から“担任の先生”として教壇に立ち、学級を運営していくことになるのです。子どもたちに囲まれる日々が続く中で、解決できない課題に直面することも少なくありません。

教室の先へ続く学級づくり

学級経営の経験が浅い先生の多くが向き合うことになるのは、通常の学級に通う“支援の必要な子”に、いかに寄り添うかという課題です。私は長年、特別支援教育に携わってきました。障がいのある子どもの自立や社会参加のため、適切な指導や必要な支援を行うことを、特別支援教育と言います。さまざまな問題行動はかつて「性格」や「個性」と捉えられていましたが、一部の障がいの特性などの生物学的要因であったり、不適切な養育など社会環境的要因が引き起こす深刻な心の傷であったりすることが、明らかになってきました。教員や保護者の中には、子どもの行動を「やる気がない」「さぼっている」「努力不足」と捉えて、怒ったり力で押さえつけてしまったりすることがあります。しかし、その場合は感情をぶつけるのではなく、医学的な視点からの教育が必要なのです。子どもたちが、それぞれに適した教育を受けられるよう導くことも、教師の大切な役割。そのために私自身も、保護者の方と何度も面談を重ねたことがあります。子どもたちを育ててきた保護者の理解なくしては、健全な学級経営は成り立たないからです。教育には、教室にいる子どもとのつながりだけでなく、保護者と教員のつながりも必要不可欠なのです。

子どもにとって先生はたった一人

現場で学級経営に取り組むまでの間にも、インターンシップやボランティア、実習先などで、みなさんは障がいを持つ子どもと出会うでしょう。心が折れそうなとき、思い出してほしいことがあります。それは、教員はたくさんの児童に出会いますが、子どもにとって先生はたった一人だということ。大人になっても、ずっと記憶に残る存在になるのです。このような職業は、他にないのではないでしょうか。私はこのことに、学級経営のやりがいを感じます。そして教員をめざす人には冷静に状況を捉え、自分の感情をコントロールする術を身につけてほしいと思います。障がいのある子どもにとって居心地のよいクラスとは、秩序のある安全な学級です。こちらが興奮すれば、それは相手に伝わり刺激してしまいます。だからこそ接するときは落ち着いて、優しく。その想いも、きっと伝わると信じているからです。

私の歩み

大学に入学した頃の私は、特別支援教育の分野に進むつもりはありませんでした。転機となったのは、障がいのある子ども達のための療育施設にボランティアとして参加したときのこと。障がいを持つ子どもたちに初めて触れ、本能的に「可愛い」と感じた瞬間、現在に続く自分の将来像が見えた気がしたのです。それ以来、積極的に特別支援教育に関わるようになりました。長年教育現場に立つ中で確信しているのは「子どもは変わる」ということです。教育には人生を左右する絶大な力があることを、経験を重ねるほどに実感します。これからも障がいを持つ子どもたち、そして教師をめざす皆さんを支えていきます。

松久 眞実
松久まつひさ 眞実まなみ
教授
略歴
大阪教育大学大学院修了、教育学修士。堺市立小学校教諭、堺市教育委員会特別支援教育課指導主事などを経て現職。専門分野は特別支援教育、学校心理学。
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